2007年11月25日

迷う意識

迷う意識


あらかじめ決められたコースと、そこから外れること。不注意でなくても、僕はそもそも、決められた
コースを、その通り歩くことが好きじゃないんだね。すぐにコースアウトしたくなる癖がある。
でも、お遍路は決められたルートを歩かざるを得ない。他の人も、なぜか違う道を行きたくなるらしい。

で、迷う。完璧に迷子になるね。そのとき初めて、外れたくなる自分に気づくわけだ。自分のやり
方を押し通し、人の言うことを聞かない頑固な自分に、まともに直面させられる。正しい道を行くの
が一番早い道なのにね。

でも、迷うのは僕だけじゃない。実は、大詰めにの88番に行くときのことだった。
ある30歳の男性と一緒に出発した。彼はかなりの健脚だった。まるで競歩のように歩く。さすが
若いね。平均時速6キロだというから、ついて行けない。こういうときは互いのペースを尊重する。
お遍路は競争じゃないからね。僕は、先に行ってもらうことにした。

僕が、午後になって88番寺に到着したとき、彼はとっくに着いているはずだった。ところが、
ついさっき到着したばかりだと言う。

「どうしたの? 何かあった?」
「3回も迷った。もう参ったですよ」
「どうしたの? どこで迷った?」
「女体山の下りで……」

彼はため息をついた。確かに女体山の道は草ぼうぼうで、ほとんど誰も歩かない道。標高
770メートルの山道には岩場もあって結構大変だ。下りる道はもっときつい。
「下っては間違いに気づき、登りなおしてまた迷い、結局3回迷ったです」

まあ、あそこなら迷っても仕方ない、女体山だもの。最後に女の身体に登るんや、30歳なら迷うの
は当たり前やね。人生これからということじゃ。

という自分も、お遍路道で何度も迷子になって、地図を上にしたり斜めにしたり、ホント苦労した。
何度もルートを見失った。あまりに何回も迷うと、自分の馬鹿さ加減に腹が立ってくる。思わず天に
向かって吼えたね。

「もういい加減にせんかー! このアホたれが! いつまで迷えば気が済むんじゃ!」
日焼けしたガイジンの奇行蛮行に、農作業している人もビックリしてたね。もっと驚いてたのは、
お遍路始めたばかりの「ピカピカのお遍路さん」グループだったけれど、構うもんかという気分だった。

すっかり頭に血が上っていた。僕は、新人お遍路さんたちに、〝これから大変なことになるよー。
楽しいのは今のうちじゃー〟と胸のなかで毒づいていた。

まあ、最後の頃になって、ようやく農家の人に道を尋ねられるようになった。
そして、そのたびに、〝訊いておいてよかったぁ。思い込みで歩き続けてたら、どないなってた
やろ〟と心から安堵したものだ。こうした気づきは、自分の身体で学ぶしかない。自分の癖を
発見していくということだ。

癖は良し悪しの問題ではない。自分の思考パターンの囚われだ。その癖が、現実を呼び寄せる。
僕の場合なら、メインロードから脇道に逸れたくなる。決まった道を行きたくないんだ。で、迷う。
道という言葉には、言霊があるでしょ。ホント、人生の問題が詰まってますよ、四国のお遍路は。


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Posted by エハン at 07:23 │Autobiography