2007年12月13日

草ぼうぼうの喫茶店

草ぼうぼうの喫茶店


で、どうなったか。実際はほとんど雨降らずの一日だったのだ。これはどういうこと? 
お天気お姉さんが嘘を言ったのか?そうじゃない。祈りの言葉が台風を逸らしたのか? 
当たり前だけど、そういうことでもないね。

これは、直観に従うということだ。僕は、自分の直観に従って、雨も風も気にしないことを選択した。
自分にとって重要な23という番号を選択したということだ。だいたい日本のニュースは大げさすぎ
るね。それがマイナスの状況を引き寄せてしまうのだと思う。

だって、あの親子遍路さんが示してくれたことは、天気予報がかきたてる不安が、「旅を中止する」
というマイナスの状況を現実化させたということだからだ。「マラナサ」。これからバッドニュースが
たくさん溢れる次代に、どうぞ皆さんにもオススメします。

というわけで、田舎の道をずんずん歩く。めちゃくちゃ暑いけれど、徳島の道は気持ちがいい。
お寺にはお遍路さんたちが集まってくるけれど、歩き始めれば人気は極端に少なくなる。
古い民家、誰もいない喫茶店、草ぼうぼうのガソリンスタンド。

鳥の声、風の音、かすかに聞こえる飛行機の爆音。自動車もあまり通らない。
古びたメニューが掲げられたままの喫茶店、錆びついた「オロナミンC」の看板、時々路地裏から
出てくる爺ちゃん、婆ちゃんの姿。ほとんど「まんが日本昔ばなし」のテーマソングでも流れそうな
雰囲気である。30年前の日本にワープしたような感じだった。昔の日本がそのまま、そこにあっ
た。古くて平和な感情と懐かしさが湧いてきた。

「暑い!でも素晴らしいね、このお遍路は!30年前の日本にワープしたみたいだ」
北朝鮮の問題とかインターネットとかIT社会とか、ニュースを賑わすキーワードにまったく無関係
な様子で、お遍路道は穏やかな自然に包まれていた。

草ぼうぼうの喫茶店

いいねえ、この道は。バブルにも高度成長にも四国は参加しなかったのか。汚染されていないん
だね。

感動した僕は、四国の田園風景を写真にとっては、パソコンでレポートしようとした。ところが、四国
はきわめて電波状況が悪いのだね。今の日本であり得ないほどだ。僕は大笑いしてしまった。
「電波通じへんのか。現代に取り残されとる。もう四国大好き!」

ただ、笑ってばかりもいられなかった。背負っているパソコンが無用の長物となったのだ。僕のパソ
コンはパナソニックの「タフブック」というヤツで、頑丈かつ最強の耐水性を誇っている。
その代わり、超重いのだ。

こいつのせいで、1日目から僕のリュックはクレージーな重さになっていた。
「パソコンはもう要らん。四国お遍路にはパソコンは不要なのだ」

僕は3日目にレポートをキッパリと諦め、宅急便で送り返した。持っていて意味がないものは、即減
らす。せっかく持ってきたのにとか、電波の通じるところなら使えるかもしれないなどという未練はない。

持ち物を減らすということには、どういう意味があるのか。まず身が軽くなるね。そして、フィジカ
ルにも精神的にも楽になる。それがわかっているのに、ほんの時々しか役に立たない代物を、なぜ
人は物を持ち続けようとするのか。これは第一の大きなレッスンだった。

毎日朝6時には宿を出た。だいたい僕が一番早かった。平均して25キロから30キロ歩く。順繰りに
お寺に着いては、納経帳に寺の名前を筆で書いてもらい、ご朱印をいただく。
驚いたのは、どこのお寺にも、毎日納経帳にサインをしているお坊さんがいるということだった。
じっと動かず、座ったまま、毎日同じことの繰り返し。たぶん、サインするのは一日百人以上だと思う。
もちろん一回300円だから主な収入源になる。とはいえ、誰でもできる仕事じゃない。この人た
ちは本当にすごい修行していると思う。

お遍路にも驚くべき人がいた。その人に出会ったのだが、「もう7回目のお遍路」だというのだ。
50代のサラリーマンだという。金曜日の夜に四国に来て、土日で毎日50キロ歩いているという。
きわめて几帳面で真面目な人だった。お遍路姿にはちまきを締めた男は、静かに言った。


同じカテゴリー(Autobiography)の記事
On the road again
On the road again(2008-03-01 11:22)

禅文化との出会い
禅文化との出会い(2008-02-11 11:48)

大徳寺と空腹時
大徳寺と空腹時(2008-01-21 10:40)

京都への遍路
京都への遍路(2008-01-12 07:23)

3Kの話
3Kの話(2007-12-30 09:49)


Posted by エハン at 10:12 │Autobiography